悪と神の正義

  • N・T・ライト著(本多峰子訳) ◆教文館
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◆N・T・ライト著(本多峰子訳)
◆教文館
◆イスラエル軍とハマスの戦闘が始まって一年が過ぎた。報道によればガザ地区での死者は四万一千人を超える。この悲惨な現実に直面して、私たちは「なぜこの世界に悪があるのか」と問わずにはいられない。善なる唯一の神を信じるキリスト者は、善悪二元論のように、悪の存在を「悪い神」に押しつけるわけにもいかない。それだけに私たちにとってこの問いは極めて深刻な問いである。
英国を代表する新約学者である著者が本書を執筆したきっかけの一つは、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件にある。著者も不条理な現実に直面して、この問いと向き合ったのである。本書を通して著者は、この問いへの解答を探すのではなく、悪の世のさなかにあっても、キリストの十字架において差し出された赦しを受け取った私たちが、その赦しを他の人々に差し出していくことこそ、悪の問題に対するキリスト者の答えであり、その答えは理論ではなく一つの生き方であると主張する。今、私たちは著者のこの言葉に耳を傾ける必要があるのではないだろうか。
(2024年10月 副牧師 川嶋章弘)

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